5月18日(火) ニューヨーク日記9(5月7日)

 ニューヨーク滞在、実質最終日のこの日、午前中、荷造りをしてから、自宅近辺を散歩した。

 まず、自宅アパートから、エンパイア・ステートビルがなぜ見えるのか、15St.に回って確認した。アパートとエンパイア・ステートビルを結ぶ線上に、背が低いアパートがあった。高層アパートが立ち並ぶ中、本当にそこだけ、ぽっかりと凹んでいた。

 そのおかげで、一年間エンパイア・ステートビルが拝めたのだ。物件を見て借りたわけではなかったので、本当にラッキーだったというほかはない。

 次に、6番街を横切り、16St.にあるザビエル教会を見学した。改装中だったが、パイプオルガンは2台もあるし、ステンドガラスも立派だった。

 そして、バーンズ&ノーブルという、アメリカ最大の書店のチェーン店で、教科書を専門に扱っている店舗にも行ってみた。中古の教科書も同じ棚に並べられていて、興味深かった。3日(月)に講義を聴いた、ダモダランの著書も並んでいた。

自宅に戻り、ニューヨークで購入したり、譲り受けたりしたものの、日本に持ち帰ることを断念した、PCとレーザープリンターを、研究室に寄贈するため、タクシーで大学に向かった。

カメラで記念撮影をした後、一旦地下鉄の駅に向かって歩いたが、ビデオも持ってきていたことを思い出し、再び大学に戻った。

隣の研究室の先生にも、帰国の挨拶をして出て来たので、夫婦二人で戻るのも間抜けな気がして、私は建物の前の広場で待つことにした。

ちょうど一年前、思い切ってニューヨークに来た際、夫を待ったのもこの広場だったことを思い出し、少し感傷的になってしまった。

 去年の春は、今年とは打って変わって寒い春だった。夫は講義に出ていたため、空港に迎えに来ることができず、一人でタクシーに乗って、この広場の前に降り立ったのだ。

 講義が終わる1時間ほど前に着いてしまったのだが、目の前に、学食代わりのファストフードの店があっても、大きなスーツケースは持っているし、だいたい、どうやって注文したらいいのか分らないと思ったら、入る決心がつかず、結局、1時間この広場で待ってしまったのだった。

 今なら、迷わず入って、コーヒーでも飲みながら、ガイドブックでも眺めて待つことだろう。一年で随分成長したものだと、我ながら感心した。

 ビデオ撮影を終えた夫が出て来たので、West 4th St.駅から地下鉄F線に乗って、42St.まで行った。ブライアント・パークでランチをしようという計画である。

 冬に来た時には、スケートリンクだった場所は、一面の芝生だった。そこに、テーブルとチェアーが出ていて、ニューヨーカーたちは、思い思いのランチを食べていた。

 夫は、近所にある「ZAIYA」という行きつけの日本食の総菜店で、おにぎりかサンドイッチを買って来て食べようと言ったが、せっかくウィークデイの昼休みの時間帯にここにいるのだから、ニューヨーカーのランチを体験してみたいと思った。

 観察していると、「ZEYTINZ」というレジ袋を持った人々が、続々と公園に入って来る。通りに出ると、そのお店は、公園の目の前にあった。

 昼休みとあって、店内はとても混雑していたが、私たちも列に並んで、オーダーの順番を待った。夫はラム肉をメインディッシュにしたお弁当を、私はビーフと味付けした温野菜のサンドイッチロールを注文した。

 お店の外では、フレッシュジュースを販売していた。好きな果物を選べば、その場でミキサーにかけ、ジュースを作ってくれる。私たちは、いちご、マンゴー、パイナップル、バナナ、オレンジジュース、はちみつ、ミルクをミキシングしてもらった。

 ブライアント・パークに戻り、運よくテーブルとチェアーの空きを見つけ、早速食べた。外で食べるランチは、ことのほか美味しかった。

 ゆっくりとランチしてから、隣の市立図書館内を見学した。2階へ通じる階段は、映画「SEX AND THE CITY」で、結婚式場のロケが行われた場所である。閲覧室は、映画「ティファニーで朝食を」のロケで使われている。

 すっかりニューヨーカー気分になった私たちは、歩いて34丁目にあるメーシーズに行った。赤い星のマークで有名なデパートである。

 三越西友高島屋イトーヨーカドーダイエーでも構わない)を合わせた感じのデパートで、高級品から日用品まで、とにかく、だだっ広いフロアーに、これでもかと言うくらいの品揃えであった。木製のエスカレーターが、今なお現役で動いていた。

見るだけのつもりだったが、バッグと、夫にはネクタイを2本、遅ればせのお誕生日プレゼントに選んだ。

 外に出ると、マシンガンを持ったPOLICEが、駐車している黒の不審車両に職務質問していた。戻って配置についたので、すかさず駆け寄り、「Any trouble?」と聞いてみた。「No problem」という答えが返ってきた。

 もっとも、何かあったとしても、教えてはくれなかっただろうが・・・。自宅に戻ってニュースを見たら、先週のタイムズ・スクエアの爆弾騒ぎの影響で、週末の警備が厳重になっているとのことであった。

 憧れの赤い星のマークの、大きな紙袋を手に持って、34St.から地下鉄F線で、Lexington Aveまで行き、因縁のロック・フェラー大学に向かった。

 年末年始に来た時は職員がおらず、とうとう構内に入れなかったが、今回は、この日、セミナーが行われていることを確認してあったので、すんなりと入ることができた。

 また、野口英世銅像があることで有名な図書館へは、警備の職員が、夫を勝手にロック・フェラー大学の教授と勘違いし、手続きなしのフリー・パスで入れてしまった。

 私にとっては3度目の正直、夫は4回目の図書館訪問であった。

 帰りは地下鉄6線の68St.Hunter Collegeからユニオン・スクエア駅乗り換えで、5時過ぎに、自宅に戻って来た。

 夫が疲れて横になっている間に、ワインとビールの買い出しに出かけた。ついでに、DUANE readeで買い物をしていたら、ナンパされそうになった。「あなたの足は美しい。結婚はしていますか?」ときた。あと、薔薇がどうとか、こうとか言っていたが、聞き取れなかった。

 「ありがとう。もちろん結婚しています。」と答えたら、すっーと消えてしまった。

 惜しい気もしたが、君子危うきに近寄らず、これで良かったのだ。

 帰宅して、夫に話したら、アメリカ人の挨拶、挨拶、と軽く流されてしまった。内心は焦ったに違いないと、密かに思っている。

 少ししてから、近所のラ・カルボラーナというイタリアン・レストランに行って、カルボラーナと、トマトとなすのペンネをテイク・アウトした。

 隣のマーケットでは、お馴染みの蟹サラダとシーフードマリネを買い足した。

 自宅に戻り、ニューヨーク最後の夜だわと思い、窓の外のエンパイア・ステートビルを眺めて、絶叫してしまった。

 夫はびっくりして、「何、何?」と飛んできた。

 ニューヨークに来た最初の夜は、赤・赤・白、そして最後の夜は、青・青・青。まるで、私が来たことを歓迎してくれて、そして帰国することを悲しんでくれているようだ。そんな訳はないが、勝手にそう思わせてもらう。

 いよいよ明日は帰国の日である。