1月13日(水) ニューヨーク日記9(12月31日)

 午前中8時頃から、マンハッタンに雪が降り始めた。つい先程まで見えていた、エンパイアステートビルが、あっという間に、雲の中に消えた。

雪の中を、二人で近所の大家さんのところに行き、用事を済ませたが、とても、出かけられる状況ではないことが分かった。

仕方なく、午前中は、自宅アパートで、スーツケースに荷物を詰めてみた。何とか詰め込める目処がついて、ひと安心。雪が小降りになって、霙まじりの雨になってきたので、スパゲティを作って、早めの昼食にした。

食べ終わる頃には、雨も止んだので、ゆっくり、自宅近くのグリニッジ・ヴィレッジとチェルシー地区を散歩することにした。

特に目当てもなく歩いた。グリニッジ・ヴィレッジでは、普段行ったことのないスーパーに入ってみたり、ブティックを覗いたり、「SEX AND THE CITY」のロケで使われた、主人公キャリーの家に行ったりした。ここは、夏休みに、家族で訪れたところでもある。

病院の前で、これから倒れます・・・という感じで、黒人の男性が、道に倒れこむ姿を目撃した。病院のスタッフが、何人か出て来て対処していたが、慌てるでもない様子だった。うがった見方をすれば、病院で年越しをするための、演技だったかもしれない。寒空の中、ホームレスの問題は深刻である。

そのまま7番街を北に歩き、チェルシー地区を目指す。途中、16丁目にあるローマンズというディスカウント・ストアーに寄った。ガイドブックでは、紹介されているものの、場所が観光スポットから外れているため、観光客はあまり訪れない。
 
GWにも、入るには入ったのだが、今回は、上の階まで探索した。独断ではあるが、あまり、ピンとこなかった。

そのまま23丁目まで歩いたところで、左に曲がり、チェルシー・ホテルへ。1882年の創業で、タイタニック号の生存者も宿泊したそうだ。オー・ヘンリーや、マーク・トウェインなど、多くの文人にも愛されたそうである。

寒かったので、カフェでもあればと思い、中に入って見たが、無かったので、こじんまりとしたロビーだけ見学して、チェルシーのギャラリー街へ向かった。

 途中、チェルシー歴史保存地区を通った。ブラウンストーンのタウンハウスが並んで建っていた。前庭には、クリスマスの装飾がそのままあった。

 東西は10〜11Av、南北は17〜23Stに囲まれた地域に、370ものギャラリーがあるのだが、道に面したショップのようなギャラリーもあれば、アパートが一棟全部ギャラリーというものもある。

 大晦日だったので、オープンしているか心配だったが、あまり探し回らないうちに、いくつかのギャラリーを観ることができた。作品はどれも斬新で、理解不能だったが、モダーン・アートは、心で感じればいい、という千住明氏の教えにより、何も考えず、作品と向き合った。

 ここから、将来MOMAに展示されるような、アーティストが生まれるかもしれないと思うと、なんだかわくわくした。

 夕方近くになったので、急ぎ自宅アパートに戻った。今日は、楽しみにしていたオペラと、今年最後のイベント、タイムズ・スクエアでのカウント・ダウンが待っている。

夫は、30分程横になれたが、私は準備のため、お昼寝が出来なかった。このことが、後で命取りになってしまった。年越しそば(緑のたぬき)を食べて、急ぎ、2線(急行)、1線(各駅)を乗り継いで、59St Columbus Circle駅に向かう。近くには何度も来ているのに、コロンバス・サークル自体に来たのは、意外にも初めてだった。

徒歩でメトロポリタン・オペラ・ハウスに行き、「カルメン」を観た。上演前には、ほとんどの人が、バーでお酒を飲みながら話をしていた。私たちも、シャンパンをいただきながら、たまたま、そばに居合わせた、日本人母娘と歓談した。

お母様の方は、他地区で、私と同じような職場で働いていることが分かり、世間は狭い、悪いことは出来ないと、思った次第である。

オペラは、席の前(前の人のシートの背中部分)に、英語の字幕は出るが、言葉はイタリア語なので、聴いていても、さっぱり理解できない。そこで行く前に、日本語の字幕が出るDVDを観て、予習をしておいた。これが功を奏して、内容を理解することができた。

カルメン」は、4幕構成だが、2幕目と、3幕目の間に、再び30分の休憩が入った。この休憩でも、多くの人が、お酒をまた飲んでいた。

DVDを観て思ったのだが、「カルメン」は、1・2幕目はストーリーもあって、面白いのだが、3幕目はその他大勢の役の人を、舞台に出すためか、行進のシーンがやたら長く、逆に、4幕目は、展開が速すぎて、あっけない幕切れとなる。

 ライブでも、1・2幕目は楽しく観たのだが、休憩を挟んで、3・4幕目は、一日の終わりで疲れているところに、シャンパンの酔いが回って、睡魔に襲われ、部分的に寝てしまった。

クライマックスでは、夫が起こしてくれたが、せっかくのオペラだったのに、残念なことをしてしまった。お昼寝をしておけば良かったと、後で思ったが、遅かった。

 でも、短時間でも睡眠が取れたので、俄然元気になった。クローク(1点に付き3ドルの有料)で預けた荷物・コートを受け取り、サンダルからブーツに、ワンピースの下に、パンツをはいて、防寒装備万端、いざ、タイムズ・スクエアへ。

 タイムズ・スクエア付近は、すでに朝からの、場所取りの人々で、埋め尽くされていることが、十分予測できた。私たちが、雪上がりのお散歩を楽しんでいる間にも、たくさんの荷物(お酒など)を持った人々と、すれ違っていたからだ。

 オペラが終わったのは10時頃で、状況を考えあわせれば、メトロポリタン・オペラ・ハウスのある62丁目から、タイムズ・スクエアのある42丁目に向かって歩くのが普通だし、実際、多くの人々がそのような行動を取っていた。

 でも、私たちは、いちかばちか、1線に乗って、42th Times Square駅を目指すことにした。もしかしたら、駅がクローズされているかも知れないと思いながら、地下鉄に乗ったが、無事、42丁目で降りることができた。

 昼間から待っている人たちは、柵のなかに、ぎゅうぎゅう詰めにされて、その時を待っていた。私たちは、横目にそれを見つつ、とりあえず、7Avと41Stの角にある、「Ruby Tuesday」というカフェに入ろうとしたが、この日ばかりは、予約チケット無しでは、入れないということであった。

 仕方なく、そのお店の前に、そのまま立って、カウント・ダウンを待つことにした。そこからは、タイムズ・スクエアの電光掲示板がよく見えたからだ。本来その場所は、予約したお店のお客さんの専用席だったようだ。しかも、柵の先頭より、少しだけ電光掲示板に近いのだ。

 ちょっと、ズルした気分になったが、お店の人に追い払われなかったし、わざわざ日本から来たのだから、許してもらうことにした。時間はまだ、10時半になったばかり。New Yearまで、あと1時間半もあった。時折、霙が交じる寒さの中を、じっと待つしかなかった。

 しばらくすると、ごみバケツのような台車が、柵に向かって行った。そして、何やら青い物体を、柵の中の人々に投げ込み始めた。我先にと、人々がキャッチしている。その正体とは、カウント・ダウンの映像を、見たことのある人は、思い出してほしいのだが、New Yearを迎えて、キスをする人たちが被っている、あのシルクハット型の青い帽子だったのだ。なぜ、青かといえば、スポンサーが、「NIVEA」だからである。

 うらやましいな、と思って見ていたら、警備の警官や、台車の横を通る通行人も、もらっているではないか。少しためらったが、急ぎ駆け寄って、図々しく、二つ下さい、と言ったら、あっさりくれた。昼間から待っている、柵の中の人でさえ、全員がもらえるわけではないのに、申し訳なく思ったが、ごめんなさい!ということで、許してもらうことにした。青い細長風船は、夫がもらってきてくれた。

 帽子には、「KISS AND BE KISSED」「TIMES SQUARE 2010」「2010 BEST KISS EVER」などの言葉が書いてあった。この帽子を手に入れた人は、KISSをしなければならないのかも・・・
意外なことに帽子は、防寒にも、雨よけにも役立った。

夫が、寒いから、「Ruby Tuesday」でコーヒーをテイクアウトしてもらって、と言うので、お店に入った。まず、チケットは?と聞かれたので、チケットは持っていないので、ステイはしないけど、コーヒーを二つ下さい、と頼んでみた。

案の定、断られたが、横にいた少し日本語が話せる、親日派?の店員さんが、やり取りを聞いていて、その人に頼んでくれて、10分待って!と私に言ってその場を去った。

暫くして、最初に私に断った方の店員さんが、コーヒーを二つ持って来てくれた。いくらですか?と聞いたら、料金はいらないと言う。狐につままれたようだったが、ありがたく頂くことにした。あの、親日派の店員さんは、いったい何と言って説得してくれたのだろうか?謎である。

 コーヒーでしばしの暖をとって、またしばらく、写真を撮ったりしながら、その時を待った。時折、「ウォー」と、ざわめき立ち、何?何?と言う感じになったが、何も起こっていないように思えた。

 いよいよ、「3、2、1、0」か、と思ったがその声は聞こえず、いきなり花火が打ち上げられ、電光掲示板(南を向いている方)に、「HAPPY NEW YEAR 2010」と言う文字が映し出された。

 想像していたような、カウント・ダウンとは少し違っていたが、無事、新年を迎えることができた。ニューヨークに来て、タイムズ・スクエアで、「NIVEA」の青い帽子をかぶり、青い風船を持って、新年を迎えるなんて、きっと、一生に一度の経験だろう。

 お祭り気分で迎えた2010年が、楽しく幸せな年になることを願って・・・・・