6月1日(火) 一目惚れ

 今日も、ワインを一本空ける前に切り上げたので、何とかパソコンに向かっている。

異性との出会いで、一目惚れという事はよくあることだし、その直感というのは、結構信頼できるということを、私たちは経験から知っている。

第一印象で、軽そうな人だなと思った人と、それでも付き合ってみて、真面目な面を見出して、思い直したとしても、最終的には第一印象が当たっていたりするし、逆に、優しそうな人だなと思って付き合い始めて、途中、泣きたくなるくらい辛い目にあっても、やっぱり、優しさに満ちていたなどという事は間々ある。

一目惚れ現象は、異性に限らずとも、物に対しても当てはまるようだ。

先日、夫とのドライブの途中立ち寄った有名ホテルで、信頼できる画廊が出張販売をしていた。

名だたる画家の数百万円もする作品が、数十点展示されていて、それを観るだけでも、テーマが無いという欠点はあるものの、下手な展覧会を観に行くより、よっぽど目の保養になった。

日本屈指の別荘地にあるホテルだけあって、目の肥えた客が多いため、出張販売に来ている東京の画廊も、上物しか持って来ていないと言う。

 別荘地でのお客は、東京のお客でもあり、下手な商売をして、悪い噂が口コミで広がることが、一番の損であるとも言っていた。

 中には、リトグラフなど、比較的安価な商品もあったが、本物と見比べてしまうと、見劣り感は否めない。

 重厚感のある油彩画の谷間に、小さいながらも、清潔感があり、かつ、上品な色気を漂わせる一枚の水彩画が、私の目を奪った。

 東郷青児の少女を描いた作品で、少女は、東郷青児のパリの恋人であると言う。ゆかりの人から買い取ったというその絵は、東郷青児鑑定委員会のお墨付きであった。

 作者毎に、専門の鑑定委員会があるという事を、この時初めて知った。

 若い頃は、シャガールの、甘くて幻想的な作品が好みだったし、最近では、色彩には少し難点を感じるが、肉感的で、生活感のある作品を描くゴーギャンや、何とも色気があり、ゴージャス感漂うクリムトが一番のお気に入りであった。

 それなのに、決して派手では無いし、むしろ、楚々として凛としたこの作品に、なぜ私は心を奪われたのだろう。

ニューヨークに何回か行って、メトロポリタン美術館にも何回か足を運んで、眼の眩むような膨大な作品を見るうちに、例えば、ドガの“踊り子”のデッサンやら、ピカソのちょっとHなデッサンなど、デッサン画も多く目にする機会に恵まれた。

このような経験を通じて、画家云々ではなく、本質的にいいものを見る目が養われたのではないかと思っている。

画商はさすが商売人、「奥さまにそっくりです」とか、「東郷青児が生きていたらモデルになっていた」とか言っていた。

あの絵は今頃、誰の心を和ませているのだろう・・・。